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ネットでよくある生活保護の勘違い

ネットでよくある生活保護の勘違い
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金子正樹
FP監修者(金子正樹)  >
貸金業務取扱主任者
宅地建物取引士
所属:AIコンサルタント株式会社
旧ニコス(現:三菱UFJニコス株式会社)にて、20年間不動産開発や債権管理を担当。 SBI住宅ローン等、モーゲージバンクの住宅ローン審査で営業歴14年有り。現在は、保険代理店・不動産・住宅ローンをメイン事業とするAIコンサルタント株式会社にて、金融業界の長い経験に基づく豊富な知識でお客様の住宅・保険・お金に纏わる業務を担当しています。
金子正樹のプロフィール

生活保護に関して、様々な情報や解説記事、SNSでの発信がインターネット上で飛び交っています。

有益な役に立つ情報もある一方で、中には生活保護や生活保護受給者への誤解を招いたり明らかに間違ったもの、デマや捏造されたものも多く含まれています。

こうした、間違った情報をうのみにしてしまい、受けられるはずの福祉の権利を受け損なったり、逆に知らない内に不正受給に加担してしまわないとも限りません。

不確かなネットの情報をうのみにして不利益が生じないように、また、SNSなどで気軽に情報発信できる時代だからこそ、自分がうかつに間違った情報を発信してしまうことがないように、ネットでよく出回る生活保護関連の情報の内、特に注意すべきと思われるものについて解説をしていきたいと思います。

Contents
  1. 生活保護制度や仕組みについてのよくある勘違い
  2. 生活保護の申請を巡るさまざまなうわさ
  3. 外国人の生活保護に関するうわさ
  4. 生活保護と医療に関するうわさ
  5. 生活保護のトラブルや義務などに関する疑問
  6. その他のよくある生活保護の勘違い
  7. まとめ

生活保護制度や仕組みについてのよくある勘違い

生活保護制度や仕組みについてのよくある勘違い

生活保護制度の仕組みに関して、よくある勘違いの例を紹介します。

自動車を持っていると生活保護は受けられない?

自動車は活用(現金化)可能な資産なので、一般的には自動車を売却しなければなりません。

しかし、正当な理由があれば保有や使用を認められたり、短期間の生活保護であれば処分の保留が認められることもあります。

自分は自動車を持っているから生活保護は受けられないと思い込んで、相談や申請のタイミングを逃してしまう人がいます。

自動車を持っている(持ちたい、手放したくない)からといって必ず生活保護が受けられなくなるわけではありませんし、相談の段階ではそもそも売却の必要もありません。

必要を感じたら自動車の取り扱いも含めて福祉事務所に相談した方がよいでしょう。

持ち家に住んでいると生活保護は受けられない?

自動車と同じで、保有する不動産の資産価値や活用方法によります。

新築の邸宅や高級分譲マンションに住みながら生活保護というのはまず認められないでしょうが、家族が昔から住んでいた個人住宅など、持ち家に住みつつ生活保護を受給している人はそれなりにいます

住居については資産価値だけでなく立地や広さ、老朽化なども考慮すべき事項です。生活保護費で自宅の修繕費用が出ることもあれば、逆に立ち退きが必要になり引っ越し代が出ることもあります。

これらは個別の実情に応じて判断されますので、ネットで調べただけでは正解はわかりません。必ず福祉事務所に確認しましょう。

親族に生活保護を申請したことがバレる?

生活保護を申請すると民法に定める扶養義務者には扶養調査が行われるので、親や兄弟といった近親者には基本的に情報が伝わります

離婚した元配偶者は親族ではありませんが、子供がいてその子供の親に当たり場合はやはり扶養調査の対象になります。

一方で、遠い親戚や扶養義務関係にない人には特別な理由がない限り調査の対象になりませんし、近親者でも寝たきりで回答を返信することもままならない高齢の親などであれば調査が省略されることもあります。

また、DVや虐待などで避難している場合には、当然調査の対象にはなりません。こうした場合は申請時にそのように事情を伝えて適切な対応を求めましょう。

ただし、単に離婚した元配偶者とは仲が悪いから扶養調査してほしくない、といった理由では扶養を受ける子供の人権を侵害することにもなりかねませんので注意しましょう。

住所がないと生活保護は受けられない?

間違いです。これだとホームレスの方は生活保護を受けられないことになります。

まず、生活保護における住所とは住民票の登録地とは異なり「実際に居住している場所」のことです。

申請時に公園やネットカフェで寝泊まりしている場合は、その公園やネットカフェのある自治体で「行旅(※いわゆるホームレスを指す行政用語)」扱いで申請することになります。

誤解の元になっているのは「ホームレスを続けたまま生活保護を受けることはできない」ということです。

入院や施設入所が必要なら申請と同時に入院・入所の手続きを、居宅確保が必要なら居宅の確保を進めます。(その間、一時的な保護施設等に仮住まいこともあります)

ネットなどで「ホームレスは生活保護を受けられない!」などと言っている人がいますが、きちんとした居住場所を確保し、就職活動をしたり通院したりする気がなく、お金だけもらって住所不定のホームレス生活を続けたい人は生活保護を受けられない、ということです。

こうした問題提起を装ったセンセショーナルな発信には騙されないようにしましょう。

働いていると生活保護が受けられない?

非常によくある誤解ですが、正解は真逆の「働ける人は働かないと保護を受けられません」です。

働いてなお収入が最低生活費に足りない場合に、その不足分を補うのが生活保護です。

働ける(生活保護費を上回る収入を得られる)のに働いていない人は稼働能力の活用義務違反で生活保護の対象になりません。

つまり(働くと生活保護費を上回る収入になるから)「働いたら生活保護を受けられない」という人は、働いても働かなくてもどちらにしても生活保護は受けられません。

似たように誤解に「生活保護を受けたら働いてはいけない」というものがあります。これも、働いた給料分だけ生活保護費が減ることを曲解しているようです。

「生活保護費が減らされるから働けない」というのは、要するに働かずに生活保護で暮らしていきたいというだけですから認められなくて当然です。

「働ける人は働く(仕事を探す)」のが生活保護の原則です。

生活保護はどこで申請するの?住民票のある自治体や本籍地?

生活保護を申請するのは原則として「実際に居住している場所」です。

遠方に旅行中に入院しそのまま生活保護になった場合は病院のある自治体ではなく元から住んでいた自治体が保護の実施機関になるなど、特殊なケースもあります。

居住とは

寝泊まりし、風呂やトイレに入り、食事や洗濯などを行っている場所のことです。

アパートを借りてそこで寝ているが、実家と行き来して普段の食事や風呂は実家ですませているような場合、単に離れた場所に子供部屋があるのと同じですから、そのアパートに居住していると申請しても認められないことがあります。こういった場合は実家で家族と一緒に申請する必要があります。

なお、法令上、実際の居住場所と住民票は一致させる必要がありますので、もし生活保護を申請した場合に住民登録が別の住所になっている場合は、速やかに変更手続きを取るように指導されます。(DV避難中で住民登録を移動できない場合などは保留されることもあります)

ただし、病院に入院中であったり、入所する施設によってはそこで住民登録することができない場合がありますので、こういった場合は「生活保護上の住所地=〇〇病院」「住民登録地=入院前に住んでいた家」のまま生活保護が続くこともあります。

なお、生活保護に本籍地は関係ありません

最近になってTwitter上で「生活保護の相談をしたら東京で申請するために本籍地を東京都に変更させられた」というデマ情報が出回っていますが、そんなことはあり得ませんので注意しましょう。

もし住民登録が異なったらどうなるの?

住民票と実際の住所が違うからといってすぐに申請が却下されたり生活保護が廃止になることはありませんが、正当な理由なく変更手続きを拒否する場合は、そうなる可能性もあります。

普通に考えて、住民票を動かすと不都合がある人は、生活保護の二重申請をしたり、税金や収入をごまかしたりしている可能性が高いと疑われます。

子どもの通学や通園のため、あるいは助成金や公共料金減免のために嘘の住民登録をする人がいますが、生活保護を受ける以上はこうした「脱法的な裏技」との併用は諦めましょう。

何らかの利益のために嘘の住民登録をした場合、罪に問われる可能性もあります。例えば、住宅ローン控除のために住んでいない家に住民票を置くことは脱税に当たる可能性があり、生活保護の申請を通じてそうした行為が発覚する事例も実際にあります。

生活保護の申請を巡るさまざまなうわさ

生活保護の申請を巡るさまざまなうわさ

生活保護の申請に関する、さまざまなうわさの真相を紹介します。

いわゆる「水際作戦」は本当にあるのか?

水際作戦とは

本来は生活保護が必要に人なのに、福祉事務所が申請させにくいように圧力をかけたり、手間を増やしたりして申請を妨害する行為です。

生活保護が急増した時期に、急激な需要の増加に対応しきれなくなった自治体などでこういった問題が実際に置き、社会問題ともなりました。

生活保護が必要な人に保護を受けさせないのは当然人権侵害ですから、国からの指導もあり現在ではこのようなことはありません……と言いたいところですが、残念ながら絶対にないとは言い切れません

申請権の侵害になる行為
  • 「生活保護を申請したい」と意思表示しているのに申請書を渡さない、あるいは申請書を受け取らない
  • 故意に審査を長引かせる(法定では基本が14日以内ですが、通常は延長されて3週間程度かかることが多いです。30日を超えてなお結果を出さない場合は特別な理由が必要ですので、30日経っても審査結果が出ない場合は都道府県に申し立てをする等の対応をした方が良いでしょう)
  • 申請に当たって必要がないことをさせる(例えば、提出する義務のない書類にサインをしないと申請できないと思わせるなど)

免許証や通帳などの書類があった方が審査はスムーズに進みますが、なくても申請自体はいつでもできます。

必要な書類が手元になくても次の日に持参すればよいだけですから、書類がないと申請もできませんと言われた場合は要注意です。

申請は早ければ良いとは限りません。例えば、必要書類は後日提出します、と言って申請書だけ先に出した場合で、法定の14日を過ぎても必要書類を提出しなかったらそれを理由に審査に落ちることもあり得ます。

申請後のタイムリミットは、福祉事務所が審査をするタイムリミットであると同時に、申請者が申請後に必要な義務(審査に必要な調査への協力や病院受診など)を果たすためのタイムリミットでもあることに注意しましょう。

もし申請権を侵害されたら

お住まいの地域の弁護士会などが相談に乗ってくれることが多いですが、まずは「それは申請権の侵害に当たるのではないか?」と確認しましょう。

もし、申請者の無知や不注意につけこんで故意に申請を妨害しているような悪質な場合であれば、こう聞いた時点で対応を改めるはずです。

不手際があったことを認めて釈明なり謝罪なりがありそれに納得できればそれで良いでしょうし、納得いかなければ最終的には都道府県に不服の申し立て(審査請求)をすることになるでしょう。

不服申し立ての窓口がどこにあるかも、福祉事務所で聞けば教えてくれます。この場合は個人でもできますが、可能であれば弁護士に依頼した方が良いでしょう。

不服申し立ては実際に行政処分(保護の決定)があった後にしかできませんから、単に窓口での対応がおかしいのではないか、というトラブルの法的な相談場所ではありません。

ただし、申請権を守ることについては、国から都道府県や市区町村に何度も通知されていますし、明らかに市区町村の対応がおかしい場合には都道府県から市区町村に何らかの監査や指導が入ることもあり得ます。

その他にも、自治体によって行政相談の窓口があったり、法務局などで人権相談ができる場合があります。

ポイントは自分の打ちたい手が

  • 生活保護法違反などの法令違反を訴えたい
  • 役所の窓口でのトラブルを解決したい(説明がおかしい、きちんと対応してくれないなど)
  • 不服申し立てなどの法的な手続きをしたい

のどれにあたるかを明確にして適切に相談先を探し、相談の内容や目的をはっきりさせることです。

問題が解決したのに執拗に追加の対応を求めたり、そもそも解決できないことや、単に不満を聞いて欲しいだけといった相談を繰り返すことはやめましょう。

申請権の侵害に当たらないことも多い?

SNSなどで「生活保護の申請に行ったら門前払いされた!水際作戦だ!」と不満を述べている人をよく見かけます。

そもそも断片的かつ一方的な主張なので何が事実なのかはわからないことが多いのですが、よく読み解いてみると、単に自分の思うようにいかなかっただけなのに「人権が侵害された」と言って騒いでいるだけのことがほとんどのようです。

家や病院に来てくれない

生活保護は自分で申請するのが原則です。寝たきりで入院中の方ならともかく、自分で手続きできる人は自分でする必要があります。

担当に不満があるのに変えてくれない

役所はホストクラブやキャバクラではありませんから、担当者を指名できません。要望は可能ですが、要望通りになるかどうかはわかりませんし、役所側には要望通りにする義務はありません。

女性が「男性恐怖症だから女性に対応して欲しいのに女性が出てくれない! 怖くて申請できない!」といったことを言っているケースも見かけます。

確かに病状など個別の事情によっては適任者が限られてくることもありますし、一定の配慮を求めることや、役所も可能な範囲であれば配慮をすべきだということは認められるべきでしょう。

しかしあくまでも常識の範囲内であり、度が過ぎた要求は認められなくても仕方ありません

仮に男性が「俺は男性恐怖症だから俺の担当者は女性じゃないと嫌だ」と要求した場合、認められなくてもそれを非常識だと考える人は少ないのではないでしょうか。

では、男性と女性とで対応を変えるのは、男女差別にもなりかねません。個人の視点では当然だと思うような要求であっても、実際には正当な要求とは言えないこともあり得ます。

持ち家や自動車を処分しないといけないと言われた

これはそもそも制度的な話であって申請権の侵害ではありませんし、窓口担当者も単に制度の説明をしただけなので窓口対応に何か問題があったわけでもありません。

仮に100%却下されるとわかっていても申請をすることはできます。(その申請に何か意味があるかはさておき)

門前払いやたらい回しにされた

実施機関でない福祉事務所(住んでいない自治体での福祉事務所)や、そもそも福祉事務所ではない窓口に行っても、自分の住んでいる自治体の福祉事務所に行ってくださいと言われるのが当然です。

福祉事務所がどこにあるかは公開されていますし、事前に電話で確認もできます。

参考 福祉事務所 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

大阪に住んでいるのに「神戸で生活保護を受けたいから神戸市に相談に行ったら門前払いされた!」というような場合は、相談先を間違えているのです。

申請書を誰にでもすぐに手に取れるように窓口に置いていない

一部の団体や政治家がこのような主張をしていますが、希望すればすぐにその場でもらえるのに、無断で勝手に持っていけるような場所に大量に置いておく必要がありませんし、無断で大量に持って帰れるようにわざわざしたい人は、無断で大量に持って帰って何をするつもりなのでしょうか?

申請書が提出されたら必ず受理し、審査などの手続きをしなければなりません。

嫌がらせやイタズラ目的であなたの名前や住所を勝手に書いて申請書を出す人がいないとも限りませんし、もしそうなったら急に役所に呼び出されたり、職場や銀行を調査されこともあり得るわけですから、イスダラでは済まないでしょう。

申請権がしっかり守られているということは、申請書の取り扱いが厳密に管理されているということです。

病気なのに生活保護が受けられないと言われた

病院に行かずに自己申告でだけで「病気だから生活保護を受けたい」と言ってそれは無理ですと言われたケースをこのように言っている人がいるようです。

病気かどうかを判断できるのは医師だけですし、生活保護の対象になるかどうかは、医師の診断結果を参考にして福祉事務所が決めることですから、そもそも病気かどうかわからないままでは審査しようがありません。

また、指定の病院を受診するように指示される「検診命令」に従わない場合は生活保護が廃止されたり、申請が却下されることがあります。

実家に帰ってはいけない、結婚してはいけないと言われた

実家に帰ったら親と一緒に実家で生活保護を申請する必要がある(親に資産や収入がある場合は生活保護の対象にならない)との説明を曲解して、あたかも生活保護を申請したら自由が奪われると言われた、と言っているケースのようです。

結婚も同じですし、似たようなケースで引っ越しできない、離婚できないなどがあります。

いずれも「生活状況が変わったらそれに応じて生活保護費の金額が変わったり、生活保護が受けられなくなる場合がある」という話を「生活保護を受け続けたいなら〇〇してはいけない」という風に曲解しているようです。

ペットを飼ってはいけないと言われた

生活保護費からはペットにかかる費用は出ませんので、どうしても飼いたければ自分の生活費(生活保護費)を削って餌代などに充てる必要があります。

これを「自分の生活費を削って餌代を出すのは無理だ」→「生活保護費からペットの餌代を出してもらえない」→「ペットが飼えなくなる」→「申請をしたらペットを飼うなと言われた」と曲解しているようです。

ペットを飼うかどうかは本人の自由ですが、自分自身の生活も成り立たないのにペットを飼っても余計に困窮するだけですから、ペットが認められないわけではないにしても決して「飼っても良い」というものでもありません。

ペットは家族同然、と思う人は多いでしょう。ペットを飼う以上は命に対する責任が伴います。

自分で責任を負えないのに「命ある生き物を自分のペットにしたい」というのは、家族同然の存在を本当に大切にしていると言えるのでしょうか。きちんと餌代を払えずに飢えさせてしまったらそれは動物虐待ですし、犬なら予防接種などの義務もあります。

また、ペットにかかる費用があまりにも高額な場合は節約義務違反になり、ペットを手放すように指示され、従わなければ生活保護が廃止になる可能性もないわけではありません。

生活保護の同時申請はできる?

複数の自治体で生活保護の同時申請はできません。物理的にできないわけではありませんが、制度的には完全にNGです。

住んでいない自治体で申請して生活保護の二重取りをするのは不正受給ですし、悪質度が高いので警察沙汰になる可能性も高いでしょう。

A市で審査に落ちてもB市では通るかもしれないから保険のために両方で申請する、といったことは絶対にやめましょう。

「相談ではなく申請に来たから申請書を渡して」と強く言った方がいいの?

生活困窮者の支援を謳う人中には、こうしたことを声高に主張する人が大勢いますが、本当でしょうか?

そういった人達は「申請する意思があると強く言わないと、いつまでたっても相談止まりでなかなか申請させてもらえない」という心配をしているようです。

確かに、申請の意思が固いのであれば、ダラダラと相談を続けるよりも申請の意思があるとはっきり伝えた方が良いでしょう。

しかし、この記事をご覧になっている方は、生活保護について疑問や不安があるからこそ、こうして調べているのではないでしょうか?

疑問や不安があるのに、それを確認もせずに強引に申請手続きを進めることは本当に正しいのでしょうか? もしその結果、思いもよらないトラブルや不利益があったらどうするのでしょうか?

例えば身体の調子が悪く病院を受診する時に、問診や検査もせずにいきなり薬をくれと言ったり、手術しろと言う患者がいるでしょうか? もしいたとして、医師や病院はそんな患者をどんな目で見るでしょうか?

生活保護で問診や検査に当たるのが「相談」です。その結果、どこの部分の手術が必要だとわかったり、入院の手続きを進めましょう、ということになるわけです。

きちんと検査しなければどんな薬が合うのか、そもそも薬で治る病気なのかどうかもわかりませんし、人によっては副作用があって使えない薬もあります。どこが悪いのかわからなければ強引に入院したところで結局治療は受けられません。

相談もせずにいきなり申請書を出して何かトラブルが起きても、そんなアドバイスをした人は何も責任も取りませんし、助けてもくれません。

経験上、後になって生活保護で不正受給をしてしまったり、トラブルが起きる一番多い原因は「最初にきちんと確認をしなかった、説明をしなかった」ことです。

生活保護を申請した以上は収入の申告は義務になります。後になって「知らなかった、忘れていた」では済みません。場合によっては犯罪として警察に告訴されることだってあるわけです。

最初に相談者の困りごとや生活状況などを確認し、どんな対応や解決策が必要かを考え、そのためにはどんな手続きや注意が必要かきちんと説明する、それに納得がいけば申請する、これが正しい生活保護の申請の手順です。

地道で手間がかかるようですが、結局はそれが一番早くて間違いが起こりにくいでしょう。

「こうすれば簡単に、迅速に思い通りにいく!」なんて都合のいい方法はありませんし、そんな都合のいい言葉を並べ立てる人には注意してください。

弁護士に同行してもらった方がいいって本当?

困窮者支援を謳う団体や弁護士などで、生活保護の申請らには弁護士が帯同した方がいい、と主張する人達がいます。

弁護士だけでなく、政治家や政党など政治団体の場合もあります。

「弁護士が帯同しないと門前払いされたり水際作戦をされて、本来生活保護を受ける権利があるのに受けられなくなる」「日本で生活保護を受けるのは難しいから専門家の手助けが必要」というような主張をする場合が多いようです。本当でしょうか?

現在、毎年200万人もの人が生活保護を受給しています。新規申請も毎年数万件が受理されているわけです。

そのほとんどの人が弁護士に帯同してもらうこともなく自分で申請し、手続きをしています

生活保護の申請はあなた一人でもできますし、あなた一人だけでも受給できる、というのが現実のようです。

バックに弁護士や政治家がいたところで、審査の基準が甘くなって本来なら保護が受けられない人が受けられるようになったり、もらえる保護費が多くなるということはありません。

普通に審査して落ちる人は、弁護士と一緒に来て審査してもやっぱり落ちますし、弁護士と一緒に来て審査に通る人は、自分一人で申請しても審査に通ります。結果は何も変わりません。

どうして彼らはそのような主張をするのでしょうか? 生活保護を必要としている人に「私達を頼らないと生活保護を受けられない」と思い込ませて、生活保護が受けられたらいてもいなくても変わらないのに「私達のおかげだ」と恩を売り、自分達の手柄だとネットでアピールしているのではないかと思えてしまいます。

「生活保護が受けられる人が、より受けやすくなるかもしれない」という点においては「弁護士がいても受けやすくなることはない」ので全く意味がありませんし、ありもしない恩を着せられるだけでしょう。

意味があるとすれば「福祉事務所のミスや不正で、生活保護が受けられるはずなのに受けられない場合」でしょう。

公務員も人間ですからミスや不正がないとは言い切れません。しかしこの場合でも、申請が却下された場合は必ず理由が明記されていますからその理由を確認してから弁護士に相談した方が良いでしょう。

例えば貯金がないにも関わらず「貯金があるから申請を却下する」となっていた場合は、福祉事務所が間違っているわけです。

逆にちゃんとした理由があって却下されているのにそれを弁護士に相談したところで結果は変わりません。

先に解説した申請権の侵害の場合でも「まずは自分ではっきり申請したいと伝えたのに申請書を渡してくれないから弁護士に相談する」という順番で良いのではないでしょうか。

どうしても自分一人では心配、という方は最初から弁護士に頼っても別にダメなわけではないですが、その時間や労力を福祉事務所での相談や問題解決に使った方が良いように思いますし、審査に無事通ったとして、ありもしない恩を着せられるだけになると思います。

本当に申請から14日以内に支給されるの?

生活保護法では、保護の申請から14日以内に決定しないといけないとされているため、そのように解説しているサイトが多いようです。

申請による保護の開始及び変更 第24条

3.保護の実施機関は、保護の開始の申請があつたときは、保護の要否、種類、程度及び方法を決定し、申請者に対して書面をもつて、これを通知しなければならない。

5.第三項の通知は、申請のあつた日から十四日以内にしなければならない。ただし、扶養義務者の資産及び収入の状況の調査に日時を要する場合その他特別な理由がある場合には、これを三十日まで延ばすことができる。

引用元:生活保護法|e-GOV 法令検索

これだけを見て「生活保護は原則として申請後14日以内に支給(決定)される」と記事を書いている人は、残念ながら生活保護の実務や実情をご存じないまま、本やネットに書いてあることで勉強だけして記事を書いている人でしょう。

実際には収入や資産の調査に時間がかかるため、14日よりも延長されることがほとんどです。早くて3週間前後、遅ければ4週間ほどかかると思っておいた方がいいでしょう。

預貯金口座をたくさん開設している人はそれだけ調査に手間や時間がかかりますし、過去に転籍を繰りかえして戸籍を追いかけるのが大変な人なども時間がかかります。

この為、手元にある通帳や年金手帳、保険証などの身分証を持参したり、過去の住所歴、生育歴などをわかりやすく早めに説明しておいた方が少しでも審査が早くなります。

また、保護決定前に必ずケースワーカーが自宅を訪問調査しますが、その訪問の日程が合わない、必要な書類の提出が遅い、申請者がなかなか病院に行かない、等の申請者側の都合により遅延することもよくあります。

いずれにせよ30日以内に決定しなければならないため、申請者の都合で30日を過ぎても保護の開始決定ができない時は、ほぼ自動的に却下されることがあります。

申請したけどやっぱり取り下げることはできるの?

可能です。申請と同じく取り下げもいつでも自由にできますし、生活保護受給中でもいつでも自由に辞退することもできます。

あまりないでしょうが、家族と相談せずに一人で生活保護を申請して、家に帰ったら家族に反対されたからやっぱり取り下げます、というような事例や、申請後に予想外の大きな収入が急に入ったから取り下げる、といった事例がないわけではありません。

生活保護は受けにくいと思わせるデマを流してはいけない理由

生活保護が必要なのに受けられないは確かに問題です。

しかし、生活保護を申請したのに審査のミスや不正で落とされた、というケースは滅多にありませんし、仮にあってもすぐにわかってリカバリーの手段も確保されています。

実際にミスや不正が明白であれば、弁護士や支援者の力を借りてリカバリーすることには意味がありますし、そうした場合に不正やミスを是正させたのであれば、お手柄だと言うべきでしょう。

ただしこれはごく例外的なケースといえます。実際に日本で「生活保護が必要な人なのに受けられない」として問題になるのは次のケースです。

  1. 生活保護そのものを知らない・制度のことや相談先がわからない
  2. 生活保護を受けたいと思っているが、自分は受けられないと思い込んで諦めてしまう

その他の事情で生活保護の申請を諦めた人は、受けられなかったわけではなく自分の意思で受けていないだけです。

生活保護を受けにくいと思わせるデマを流してはいけないのは、②のような人を増やしてしまうからです。

また①のように人に対しては「生活保護というものがあるから、まずは何でも相談してごらん」と伝えることが必要です。

「相談では門前払いされるからダメだ。すぐに申請した方がいい」というような間違ったアドバイスをしてしまったらどうなるでしょうか?

自分がよく知りもしない制度についていきなり申請書にサインし、判子を押すのは不安ではないでしょうか? かえって生活保護から遠ざけることになりかねません。

生活保護のハードルが上がり、支援者や弁護士がいないと受けられないとなるほど、支援者や弁護士の価値が上がります。

ですから、必死になって生活保護のデメリットばかりを強調し「生活保護は受けにくい」という間違った情報を流しているのではないかと思います。

その結果「なんだかよくわからないけど生活保護はやめとこう」「生活保護を申請してもどうせ通りっこない」「生活保護を受けたらデメリットが多いから私には向いていない」と思う人を増やしてしまっては、水際作戦をやってしまっているのと同じようなものです。

生活保護には要件があり、誰でも簡単に受けられるというわけでもありませんが、逆に要件に当てはまる人であれば誰でも利用できる制度です。

生活保護のデメリットや不正受給など、ある一面だけを強調して偏ったイメージを膨らませたり、誤解を生むような情報発信は、実際に保護を必要としている人にとって不利益を生じさせるリスクもあります。

先ほどの通り、年間200万人の人が生活保護を受給しています。そのほとんどの人は自分で申請し、手続きをしています。

生活保護を申請して利用するのは特別なことではありませんし、普通の人では使えないほど難しいわけでもなければ、デメリットが多すぎて利用できる人が少なすぎるわけでもありません。

この記事をご覧になっている人が生活保護が必要だと感じられるのであれば、記事を参考にした上でお気軽に福祉事務所に相談していただければと思います。

外国人の生活保護に関するうわさ

外国人の生活保護に関するうわさ

外国人の生活保護については、真実ではないデマの情報が見受けられる場合もあるようです。

ここでは、よく見かけるうわさの真相を紹介します。

外国人の生活保護受給は憲法や法令違反?

定期的に出回る悪質なデマです。外国人への生活保護適用を違反とするような規定や判例は存在しません。

生活保護法は日本人だけが対象?

これはその通りです。生活保護法ははっきりと「日本人が対象」と条文に書いてあります。

この法律の目的 第1条

この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。

引用元:生活保護法|e-GOV 法令検索

ではなぜ外国人にも生活保護が適用されるのでしょうか?

簡単に説明すると「生活保護法の対象は日本人だけであるが、様々な理由により生活保護が必要であり、また国が保護すべきと認められる外国人に対しては、日本人と同じような保護を実施する」という国の方針に基づき、日本人向けの生活保護法の「準用」という形で外国人へも生活保護が実施されているからです。

これが現在の状況であり、現在の法律上ではこれが正しい対応であると最高裁の判決で確定しています。

少しややこしいですが「法律の対象範囲は日本人だけ」だが「生活保護制度の対象範囲は外国人を含む」と考えるとよいと思います。

不服申し立てができないなど一部日本人と取扱いが異なる場合がありますが、基本的に「留学生などの一時的な滞在者ではなく、在留資格がきちんとある外国人」であれば日本人と同じように手続きできますので、外国人の方も安心して相談や申請をしてください。

外国人だと生活保護が優遇されやすいって本当?

これも外国人の生活保護を巡る悪質なデマです。

日本人と取扱いが同じなのですから、審査の基準や方法、支給金額なども日本人と全く変わりません。

外国人が大量に生活保護を受けていたり不正受給をしているって本当?

これも外国人の生活保護を巡る悪質なデマです。

自治体による集計方法の違いや同一世帯に日本人と外国人が混在す場合などがあり正確な数字は出ていませんが、生活保護受給者の大半は日本人です。

地域によって外国人住民の比率が多いところもあり、そういったところでは生活保護受給者も外国人の比率がよりも増えることはあります。

人口比で日本人が圧倒的に多いのですから、不正行為をする人の数も日本人が大半です。外国人による不正行為が特に大きいわけではありません。

ただ、生活保護の不正受給に限らず他の外国人犯罪も同じですが、生活様式やコミュニティの違いから、不正をする場合の手段や傾向には差があります。

生活保護と医療に関するうわさ

生活保護と医療に関するうわさ

生活保護を受給するにあたって心配されるのが、医療に関する内容です。

ここでは、よく質問される医療関係のうわさについて紹介します。

医療費が無料になるって本当?

本当です。生活保護を受けると医療費の自己負担は原則0円になります。

ただし、下記のようなケースではそうならない場合もありますのでご注意ください。

  • 入院時に個室を希望した差額ベッド代
  • 健康保険適用外の自由診療
  • 福祉事務所の許可なく勝手に受診した場合(同じ病気で複数の病院をハシゴするなど)

生活保護を受けると健康保険に入れなくなるって本当?

生活保護を受けると、国民健康保険や後期高齢医療制度には加入できなくなりますので、健康保険証を返還することになります。

健康保険がないと国民健康保険では3割だった医療費の自己負担が10割になりますが、生活保護が10割負担して支払われることになります。

なお、社会保険ではあれば生活保護中も継続加入できますので、この場合は従来と同じく健康保険証と、生活保護の医療券を持って病院を受診することになり、健康保険で7割・生活保護で3割を負担し、自己負担は0円になります。

生活保護の指定病院しか利用できないのは本当?

基本的に生活保護でも健康保険でも受診する病院は自分で選ぶことができますが、生活保護の場合は、福祉事務所の発行する医療券が必要になります。

自治体や日時によっては病院の受付で出す必要はなく、後日福祉事務所から病院に郵送されることもあります。

福祉事務所が認めた病院でしか受診できませんが、かかりつけ医の紹介状なしにいきなり大きな病院を受診したり、わざわざ交通費のかかる遠方の病院を受診したいといった場合でなければ、自分が希望する病院を受診できるでしょう。

ただし、病院によっては生活保護の指定医療機関に指定されていないことがあります。この場合、その病院では生活保護による医療が利用できません。

今まで通っていた歯医者さんが指定を受けていない場合などは、残念ながら通う病院を変える必要があります。

差額ベッド代は払う必要がないの?

「病院に本来払わなくてよいはずの差額ベッド代(個室料金)を請求された!」という記事や発信を目にすることがあります。

差額ベッド代を払わなくてよいのは「大部屋が空いていないため個室に入院した」「感染症のリスクがあるため個室に入院するように医師が判断した」といった、病院の都合や病院の判断で個室に入院した場合です。

逆に、大部屋が空いているのに自分で個室を希望した場合などは料金も自己負担になります。

生活保護のトラブルや義務などに関する疑問

生活保護のトラブルや義務など

生活保護でのトラブルや義務に関して、よく耳にするうわさの真相を紹介します。

収入申告は後から出しても大丈夫?

人間、ついうっかり忘れてしまったり、提出期限を過ぎることもありますが、収入申告は最大で半年程度までなら遡って清算することが止められていますので、忘れていてもすぐに事後すぐに申告すれば大丈夫です。

ただしこれは半年間は出さなくてもいい、ということではありません。半年も全く収入を申告しなければ、保護の停止や廃止まで手続きが進む可能性もあります。

特段の理由もなく何か月も後になって申告したり、ケースワーカーから指摘されてはじめて申告した場合は、本来生活保護費から差し引かれる必要がなかった分まで差し引かれる場合や、故意に収入を隠していたと判断された場合は不正受給として徴収や刑事告訴の対象になる場合もあります。

生活保護費は差し押さえされない?

過去に借金や税金を滞納し、強制執行の対象になっていたとしても、生活保護費は生きていくために最低限必要なお金ですから差し押さえられることはありません。

ただし、これはあくまで「生活保護費の部分」だけです。

生活保護費以外の差し押さえ可能な収入がある場合や、一旦口座に入った保護費を引き出して別の口座に移した場合などは差し押さえされる可能性はあります。

こうした場合でも、生活困窮状態であり生活保護を受けているので差し押さえされると生活が維持できないことを訴え出れば差し押さえの解除や返金に応じてもらえることもありますが、余剰金が残っていたりする場合は必ず返ってくるとも限りません。

生活保護を受けていてもらったお金は返さなくてよい?

生活保護の決定を受けても、支給された保護費を返還しなければいけないことはあります。

代表的な例が

  1. 資力(資産)があるがすぐに現金化して生活費に充てられないので緊急的に生活保護を受けて、現金化してから返還する場合(第63条返還金)
  2. 生活保護を月の途中で変更や廃止になり、月初に先払いされた保護費を日割りで返還する場合

のふたつです。

これ以外にも不正受給した保護費は当然返さなくてはいけませんが、この場合は返還金ではなく徴収金と呼ばれます。

生活保護費の返還金の免除

上記の返還金には免除規定があり、必ず全額を返還しなければならないわけではありません。

返還の免除 第80条

保護の実施機関は、保護の変更、廃止又は停止に伴い、前渡した保護金品の全部又は一部を返還させるべき場合において、これを消費し、又は喪失した被保護者に、やむを得ない事由があると認めるときは、これを返還させないことができる。

引用元:生活保護法|e-GOV 法令検索

生活保護法第80条の規定をわかりやすく解説すると、月の途中で生活保護から自立した場合でも、その自立のため、あるいは自立後の生活再建に必要なためのお金(自立助長のためのお金)であれば返還しなくてもよい、ということです。

返還免除の対象になりそうな場合は、理由をきちんと説明して積極的にケースワーカーに相談するとよいでしょう。

返還金が免除されやすい代表例
  • 生活保護受給者が死亡し、遺留金を亡くなった方の葬祭費や納骨費に充てる場合
  • 生活保護受給者が死亡し、遺留金をアパートの退去費や家財の処分料に充てる場合
  • ・実家にもどって親と暮らすなど、転居に伴い生活保護が廃止になる場合で、残ったお金を転居費や移送費に充てる場合
  • 生活保護から自分の意思で早期に辞退した場合で、残ったお金を何に使う必要があるか明確な場合(単に1か月分だけの保護費目当てで申請して受け取ったらすぐに辞退したような場合は免除されません)
  • 月初に1か月分の家賃や公共料金の支払いに充てて手元に残っていない場合
  • 返還金を全額返還すると、保護廃止直後にすぐに生活保護が必要になったり、生活保護から自立できたはずの人ができない場合
  • 残った生活保護費を子供の進学費用など、世帯の自立に大きく貢献するために使用する場合
免除の対象にならない代表例
  • 生活保護を受けていた世帯員の一人が転出したにも関わらずその申告を怠って、その世帯員の分の生活保護費まで転出後も支給されてしまった場合
  • 収入申告が遅れたために生活保護費が多めに支給されてしまった場合
  • 財産の処分保留を認められた上で生活保護を受給し、その財産を処分した場合(本来は、生活保護を受ける前にその財産を処分する必要があったもの)
  • 自立助長と関係なく単なる浪費で保護費を使ってしまった場合(残っているはずの生活保護費をパンチコで使ったから手元に残っていません、というような場合)
  • 不正受給した保護費の徴収金

自分の親族が生活保護を受けていた場合の遺留金

生活保護受給者が亡くなった場合、相続人が返還金の免除を申し立てることができます。

例えば自分の親が生活保護を受けていて亡くなり、遺留金が10万円あったとします。

本来でしたら亡くなった日以降の分の生活保護費はその10万円から返還しなければいけませんが、相続人の方が、生活保護を受けていた受給者の葬儀費用のためにその10万円を使いたい、というような場合は免除が認められる可能性があります。

その他のよくある生活保護の勘違い

その他のよくある生活保護の勘違い

ほかにも、生活保護に関するさまざまな勘違いの例を紹介します。

生活保護を受けている親が亡くなったんだけど葬祭費が出るの?

出ません。

葬祭扶助の対象は「生活保護受給者が喪主になる場合」です。これはよくある勘違いなので気をつけましょう。

生活保護では大学に進学できないって本当?

大学に通いながら生活保護を受給することはできませんが、これはやや誤解を招く表現です。

例えば一人暮らしの社会人が、仕事をせずに大学に社会人入学をした場合は生活保護は受けられません。

一方、子供のいる世帯で、高校を卒業し子供が就職ではなく進学する場合は、世帯まるごと生活保護が受けられなくなるわけではなく、その子供の分の生活保護費がカットされるだけになります。

これを員減といい、例えば親子二人の家庭であれば、高校生までは二人世帯として保護費の計算がされていたのが、進学後は親だけの一人世帯として保護費が計算されることになります。

生活保護を受けると公民権が停止される?

出所がよくわからないのですが、自己破産すると公民権が停止される、というデマが出回ったことがあるので、それが変化したのではないかと思われます。

生活保護を受けたからといって選挙権を失ったりパスポートが失効するなど、権利を喪失することはありません。

ただ、生活保護制度の中で海外渡航が制限されることはあります。

生活保護を受けると貯金してはいけない?

これもよくある誤解で、日用品の買い替えや子供の進学のための費用、冠婚葬祭など臨時的な出費に備えてある程度の貯蓄を蓄えておくことはむしろ推奨されています。

禁止されているのは、資産形成をするために生活保護を受けることであり、例えば生命保険や個人年金の積み立てで多額の解約返戻金があるのに、それを温存したまま生活保護を受けるといったことは認められていません。

生活保護を受けながらパチンコに行くのはアリ?ナシ?

大きな議論になりがちな話ですが、現状、パチンコに限らず公営ギャンブルや、酒、タバコといった嗜好品もそうですが、常識の範囲内で、生活を圧迫するようなことはせず息抜きとして楽しむ分には問題ありません。

ところが、生活再建のために充てる資金や時間を削ってまでギャンブルにのめりこむようだと、義務違反として指導や禁止される可能性もあるでしょう。

具体的には、ハローワークに行かないで朝からパチンコに並んでいる、面接の約束をしたのに酒を飲んで、酔っぱらった状態で面接に行く、などです。

ここまでひどい状況だと、依存症など何らかの治療やケアが必要な状態であることが疑われますので、生活保護費でのギャンブルの是非の問題ではなく、医療を受けているかどうかという点が問題になるでしょう。

再三、病院へ行くように指導されているのに無視してパチンコに行っているような場合は生活保護を続けても全く本人の自立につながりませんので、生活保護の廃止もあり得るでしょう。

生活保護を受けたのに家賃分が書いてある金額通り支給されない

家賃など、住宅関係のお金は生活保護費のうち住宅扶助から支給されますが、全ての費用が支給されるわけではありません。

まず、家賃分の住宅扶助には上限がありますので、上限を超えた賃貸物件に住んでいても上限額までしか出ませんし、上限額よりも安い物件の場合は実際の家賃額しか支給されません。

家賃の上限額は、世帯の人数に応じて各自治体ごとに決められています。

例・京都市の場合の上限額
  • 1人世帯 40,000円
  • 2人世帯 48,000円
  • 3~5人世帯 52,000円
  • 6人世帯 56,000円
  • 7人以上 62,000円

参考元:京都市住居確保給付金支給事業について|京都市

また共益費に関しては家賃に含まれず、住宅扶助の対象となりません。(生活扶助費の中からやりくりして支給すべきものとされています)

この他、家賃以外の名目による請求(駐車場代や駐輪場代、水道代、管理料など)は基本的に住宅扶助費からは支給されません

従って、家賃が安くともその分共益費が高いような物件は生活保護向けとはいえず、やめておくべきでしょう。

また、賃貸契約の更新料は住宅扶助から支給されますが、1年につき1か月分の家賃を超える部分は自己負担になります。この計算時の家賃にも共益費は含みませんので、更新料が1か月分の家賃を超える場合は要注意です。

まとめ

生活保護制度は複雑で分野が多岐にわたるため、正確な理解したり情報を入手することは簡単ではありません。

生活保護に関して、間違った情報を信じてしまうと様々な不利益や不都合が生じることがあり、また間違った情報を流してしまうと不正行為に加担してしまう可能性もあります。

中には親切や注意喚起のつもりで間違った情報を流してしまう人もいますし、実際の制度と、自分が理想とする制度を混同してしまっている人も多く見かけます。

また、多く場合で生活保護上の判断はケースバイケースです。

例えば厚生労働省のホームページでは、住宅ローンと生活保護についてこのように書かれています。

A.住宅ローンがあるために保護を受給できないことはありません。ただし、保護費から住宅ローンを返済することは、最低限度の生活を保障する生活保護制度の趣旨からは、原則として認められません。

引用元:「生活保護制度」に関するQ&A|厚生労働省

生活保護の説明としては正しいのですが、肝心のローン付住宅がどうなるかがここには書かれていません。

住宅ローンを残したまま生活保護を申請したい人というのは、要するに「住宅ローンの支払いが苦しいが家を手放して引っ越しはしたくない」という場合でしょう。

実際問題として住宅ローンとローン付住宅を残したまま生活保護を受けられる場合はかなり限定的です。

まず、銀行などに生活保護期間中のローン返済を猶予してもらう必要がありますが、生活保護がいつ終わるかわからないのに、無期限でローンの返済をストップしてもいいですよ、その間の金利や延滞金も免除しますよ、と言ってもらえる可能性がどれだけあるでしょうか。

もしかしたら一生、ローンを返済しないまま生活保護を受けてその家に住み続けることになる可能性もあるわけです

仮に生活保護は受けられたとしても、肝心の住宅は銀行の判断によって失い、ローンだけが残る可能性もあります。

つまり「住宅ローンがあっても生活保護を受けられます」というのは「住宅を手放して安い賃貸アパートなど引っ越してそこで生活保護を受ける、残ったローンはそのまま(生活保護期間中は返済できませんが、差し押さえなどで取り立てられることもありません)」という意味です。

ローン付住宅に住み続けたまま生活保護を受けられる可能性も0ではありませんが、かなり難しいでしょう。

こうしたことを理解しないままだと「ローンが残っているが今の家に住み続けたまま生活保護が受けられる!」と勘違いする人が出てもおかしくありません。

繰り返しますが、その希望通りになるかどうかはケースバイケースであり、この例についてはかなり難しいといえます。生活保護に関する質問をされても「ケースバイケースです」では間違いではありませんが答えにもなっていません。

質問の意図、制度の仕組みや現実の運用のされ方などをできるだけ正しく理解した上で、制度を知らない人にもおかしな誤解が生じないようにあらゆる場合を想定して回答するのは、なかなか難しいことです。

「できる、できない」を安易に断言してしまったり、逆にわかりやすく断言ができないからと曖昧な解説をしてしまうのは不親切であり、無責任であるとも言えます。

また、例え善意や正義感からであっても明らかに間違った情報を流すことは悪質な行為と言わざるをえません。

注意したいポイント
  • 最終的にはケースバイケースだが「一般論でこうなることが多い」とは言える
  • 個別の事情によってはその解説の通りにならない場合も十分にあり得る
  • 制度の説明が正しくても質問に対する答えにはなっていないこともある
  • 安易な断定は要注意
  • 「こうなるべきである」という理念や理想的な制度の説明と「こうなります」という実際の運用は別の話。多くの場合で100%自分の希望の理想通りにならない
  • 特にネットで「自分が理想とする生活保護や福祉のありかた」について語っている場合は実際の生活保護とは違うことを言っている場合が多いので要注意

これらを十分にご理解の上で、生活保護に関する正しい知識を身に付け、いざという時に活用できるように準備していただければと思います。

本記事においても「一般的にはこうなるが、例外もある」という場合に例外を逐一解説していては、結局、何が正しい答えなのかわからなくなってしまいますので、あくまでも生活保護に関する一般的な説明とさせていただいています。

従って、必ず全ての場合で本記事に書いてある通りになるとは限りません。それぞれの個別具体的な可否の判断については、生活保護の実施機関となる福祉事務所にてご自身においてご確認ください。

また、保護の基準額や制度については2023年5月の時点で確認していますので、今後の改正等により変更される可能性もあります。

本記事は、そういった相談をされる際に「何を聞けばよいのか」「どんな聞き方や要望の伝え方をすればいいのか」「どんな相談ができるのか」といったことを考える際の参考としてお使いください。

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